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高松高等裁判所 平成2年(行コ)1号 判決

愛媛県今治市泉川町二丁目四番四二号

控訴人

問田寒一

右訴訟代理人弁護士

高井實

同県同市常盤町四丁目五番地一

被控訴人

今治税務署長 渡辺純夫

右指定代理人

吉田幸久

山本孝男

香川竹二郎

宮武輝夫

右当事者間の所得税更正処分取消請求控訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が昭和六〇年一〇月八日控訴人に対してした昭和五九年度分所得税の内更に納付すべき本税を九〇万円とする更正処分、重加算税額二七万円とする賦課処分を取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

二  当事者双方の事実に関する主張は、次のとおり改めるほか原判決事実摘示のとおりであるからここに引用する。

原判決事実摘示中の「本件賦課決定処分」をすべて「本件賦課処分」と改め、同三枚目表七行目「売却した」の次に「(以下「本件売買」という。)」を加え、同四枚目表三行目「き」、同六行目「ち」、同七枚目裏末行目冒頭から一六枚目裏七行目終までを、それぞれ削る。

理由

一  控訴人の請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  本件更正処分、本件賦課処分について

1  各成立に争いのない甲第一号証、乙第一ないし第八号証、第一五号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一三号証の一、二、第一四、第二〇号証、原審証人矢野隆雄の証言により原本の存在と成立が認められる乙第九、第一〇号証、第一一号証の一、二、原審証人宇野敏詳の証言により成立が認められる乙第一七号証、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一八号証の一、同じく原本の存在と成立が認められる同号証の二、三、原審証人矢野隆雄、同宇野敏詳の各証言を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  矢野隆雄(以下「矢野」という。)は、本件土地をその道路対岸で経営するスーパーの駐車場用地とするため、昭和五八年一一月ころ不動産取引業を営む真鍋謹志(以下「真鍋」という。)を通じ控訴人に対し、代金は三・三平方メートル当たり二六、七万円程度で買い受けたい旨申し込み交渉していたが、控訴人が当初売却の意思がなく交渉が進まなかったので、右真鍋より総額二四五〇万円(三・三平方メートル当たり約三一万円)で交渉してはどうかとの勧めもあり、それで交渉して欲しい旨述べ交渉したところ、控訴人はその引渡時期を昭和五九年一月以後として売却することを承諾した。そこで、矢野は昭和五八年一一月一八日控訴人から、本件土地を代金二四五〇万円とし、手付(代金内入)二〇〇万円を同年同月同日、残金を昭和五九年一月中旬に所有権移転登記手続と引換えに支払う約定で買い受ける旨契約し(本件売買)、その売買契約書(乙第一号証)を作成した上、矢野は昭和五八年一一月一八日控訴人に対し右手付二〇〇万円(その金員は同年同月同日伊予銀行桜井支店の普通預金から二五〇万円を払い戻したものである。乙第九、第一〇号証)を支払った。

(二)  しかし、控訴人はその後間もなく(昭和五九年一月五日ではない日時に)右真鍋を通じて矢野に対し、右(一)の事実に反し、契約自体は従前のとおりとするが、その契約書の記載だけを作成日付昭和五九年一月五日(大安吉日)、代金二〇〇〇万円、手付(代金内入)二〇〇万円を即日、残代金を昭和五九年一月二〇日所有権移転登記手続と引換えに支払う旨の記載にして作成し直すよう求めた。矢野は控訴人の右要求が控訴人の税務対策等いわゆる裏金工作のためと考えたものの、本件売買の履行を求める必要上止むなくこれに応じることにしてその契約書(乙第六号証)を作成したが、同年同月同日に契約して手付金を支払ったものではない。なお、控訴人はその際矢野に対し、右(一)の売買契約書を破棄するよう述べたが、矢野は後日紛争が生じた場合に備えてそれを保存していた。

(三)(1)  矢野は昭和五八年一二月一六日伊予銀行唐子台出張所に対し、本件売買代金の支払に当てるため二〇〇〇万円の貸与申込をしたが、同銀行としては、矢野との従前の取引状況、スーパー経営状態よりみて、その貸与については申込の当時から問題がなくその貸与を決定していた。従って、矢野がその貸与額を増加させるために本件売買の代金額を事実に反して多額に記載した売買契約書を作成してこれを同銀行に提出する必要は全くなく、現実にもそれを提出していない。

(2)  矢野は昭和五九年一月二七日同銀行から、前記(1)の申込に基づき二〇〇〇万円の貸与を受けたが、その内訳は同銀行振出の小切手金額一八〇〇万円と、現金二〇〇万円によった(乙第一一号証の一の記載)。矢野がその支払確保のため同年同月同日同銀行に宛て金額二〇〇〇万円の小切手(同号証)を振出交付した。

(四)  矢野は昭和五九年一月二七日控訴人に対し、自己の取引銀行である伊予銀行唐子台出張所で、所有権移転登記手続関係書類の交付を受けるのと引換えに、次の方法で残代金全額を支払った。

(1) 内一八〇〇万円については、矢野が前記(三)(2)で交付を受けた同銀行振出の同額の小切手(乙第一三号証の一)を控訴人に交付し譲渡した。控訴人が代表取締役をしている株式会社二絛建設は同年同月同日同銀行日吉支店に対し右小切手を裏書譲渡して(同号証)同社の当座預金口座に入金し(乙第一七号証)、右小切手が同年同月二八日同支店から同本店に交付され、同本店が自己宛小切手としてその当座勘定に入金した(乙第一八号証の三)。(従って、右小切手が同年同月二七日同銀行唐子台出張所で現金化された後矢野から控訴人に交付されたものではない。)

(2) 矢野は前記(三)(2)により同銀行から貸与を受けた現金二〇〇万円に所持の現金を合わせた現金四五〇万円を控訴人に交付して支払った。(しかし、この金員部分がいわゆる裏金に当たるため、控訴人は矢野に対しその支払を受けた旨の領収書を発行しなかった。)

以上のとおり認められ、右認定に反する原審証人真鍋謹志の証言、原審及び当審控訴人本人尋問の結果はその根拠に乏しいのでにわかに信用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

2  右認定事実によると、控訴人が昭和五八年一一月一八日矢野に対し、本件土地を代金二四五〇万円で売却し、その代金全額の支払を受け、それが昭和五九年分の譲渡所得となったものであり、被控訴人が右事実に基づき、所得税額を算定し従前の所得税を更正してさらに納付すべき本税額を賦課したこと、及び、右事実の隠ぺい又は仮装を理由に重加算税を賦課したことに何らの違法がない。

三  本件売買による所得税額、重加算税額の算定についてみると、控訴人が確定申告で、総所得額五二七万八八〇〇円とし、本件売買当時の租税特別措置法三一条一項による分離長期譲渡所得税につき本件売買代金二〇〇〇万円から必要経費等七二三万円を控除した一二七七万円、税額二八四万八八〇〇円とし、控訴人が右税額を納付していることは当事者間に争いがない。従って、本件売買代金二四五〇万円の内税額の未計算部分は、右二四五〇万円から必要経費七二三万円を控除した課税標準額一七二七万円と従前の課税標準額一二七七万円との差額四五〇万円の部分であり、それに法定税率一〇〇分の二〇を乗じた額九〇万円が更に納付すべき本税額であり、その重加算税額は二七万円となる。

四  以上のとおりであるから、被控訴人の本件更正処分、本件賦課処分は何れも適法であり、控訴人の本訴請求は何れも理由がないのでこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条の規定に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木積夫 裁判官 孕石孟則 裁判官 高橋文仲)

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